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全国の注目事例

1.事業スタート後に浮上した、低炭素化という課題

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ディンギーの走る水面の向こうにはイオンレイクタウンが見える

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桟橋から確認できる水位計。水位は平常時で1.5~1.0mという

水面には、アクセスディンギーと呼ばれる小型ヨットが浮かび、水辺では、思い思いに休日を楽しむ人びとが憩う――。これは今春「まちびらき」した越谷レイクタウンのシンボル、大相模調節池の週末の様子です。
東京都心から北におよそ22km。まちのほぼ中央に開業した新駅から都心まで35~45分というロケーションにあるこのまちの開発の歴史は、旧建設省が 1988年に掲げた「レイクタウン構想」までさかのぼります。越谷レイクタウンは、市街地整備の一体的推進を掲げる同構想の第1号事業として、1999年から始まりました。UR都市機構の施行による土地区画整理事業により、総面積の約17%(38.8ヘクタール)を水面が占める“水のまち”が生まれました。
大相模調節池北側の広さは、およそ東西570m、南北470m。平時の水深は約1.5~1.0mですが、大雨などの際には水深5mまで水を蓄えることが可能。その水量は、50mプール約800杯分といいます。
「これは、逆転の発想といっていいと思います」というのは、UR都市機構埼玉東部開発事務所所長の杉浦さんです。「これまで調節池は、フェンスで囲まれた閉鎖的空間としてつくられるのが一般的でした。レイクタウン構想は、それを人びとの暮らしの一部として開放しようと考えたのです」。
「親水文化創造都市」というコンセプトを掲げ、事業がスタートしたのは1994年のこと。しかし、事業にはその後、新たなテーマが加わることになります。それは、環境共生を先導するまちとして、まちそのものを低炭素化するという課題でした。
京都議定書が議決されたのは1997年。それを受けUR都市機構は、人びとの暮らしを通してCO2削減を実現するまちづくりへの挑戦を越谷レイクタウンにおいて開始したのです。そのための方法を模索するなかでまず浮かび上がったのは、まちのシンボルである大相模調節池の存在でした。

2.クールスポット=調節池で脱ヒートアイランド化を

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ビオトープから対岸を望む

低炭素化に向けた課題のひとつに、都市部の気温が周辺に比べて高くなるヒートアイランド化をどう緩和するかという問題があります。
緑地減少による土地の保水能力低下や、アスファルト・コンクリートの蓄熱など、複合的な要因が考えられるヒートアイランド化に対し、植栽などで緑を増やすことがクールスポットとしての効果があることはよく知られています。屋上緑化や壁面緑化はこのような考えにもとづくものですが、同様の効果は調節池の広大な水面、水辺にもあると考えます。つまり調節池には、クールスポットとしての役割も期待できるわけです。

問題は、その効果が及ぶ範囲をいかに広げていくかという点でした。その実現に向け、越谷レイクタウンの道路計画によって、調節池から流れる風を活用できる環境にもあります。
「池から吹く風は、やはり涼しく感じますよ」と杉浦さんはいいます。「現在は効果を調査している段階ですが、無風時で周囲100m、風がある日には200~300mの範囲に効果が及ぶと考えています」。
歩道などに保水ブロックを採用したことも、ヒートアイランド化緩和に向けた取り組みのひとつ。雨水を蓄え、晴れた日に蒸散させることで、従来に比べ、夏場の路面温度を10~20℃下げることが可能といいます。また、脱自動車化への布石として幹線道路に自転車専用レーンの整備も行っています。
さらに調節池に隣接する土地を環境共生モデル街区に設定し、民間事業者への販売にあたりCO2 20%以上削減を盛り込むことを義務づけました。
「これは街全体の低炭素化に向けた先導的役割を期待してのもので、調節池からの風の流れの確保、住宅の省エネ化など総合的な見地から各社のプランを評価し、事業者を決定しています」
この試みは、国内最大規模の太陽熱利用システムを備えた集合住宅や、地域に吹く風を利用し、高効率な機器の導入や住宅性能を向上させることで省エネ化を実現する戸建住宅(いずれも大和ハウス工業)、CO2 20%以上削減を掲げる大規模複合商業施設(イオンレイクタウン)として結実しました。
環境共生モデル街区の集合住宅・戸建住宅は、環境省の「街区まるごとCO2 20%削減事業」にも採用されています。同制度の採用事業には、そのほか国内最大規模の太陽光発電システムを導入した集合住宅(福岡県北九州市)等があり、それぞれ低炭素社会実現に向けた先導的役割を担っています。

3.調節池整備とともに生まれた地域コミュニティ

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現在も住宅の整備が進む

越谷レイクタウンの総面積は、225.6ヘクタール。事業計画全体の完成予定年は2013年で、将来的にはここに2万2400人が暮らすまちが生まれる予定です。
環境共生モデル街区では、民間事業者とのパートナーシップが大きな成果をあげましたが、今年11月末からは、一般購入者への宅地販売がいよいよ開始されます。まち全体の低炭素化をめざすうえでは、ここに暮らす人びとの取り組みが大きな意味を持つことはいうまでもありません。
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UR都市機構埼玉東部開発事務所所長 杉浦省悟さん

「とはいえ、一般の方への分譲に条件をつけるのは難しいのが現実です。そこで分譲時に、まちとしての取り組みを説明するとともに、省エネ機器の導入や雨水を利用した潅水など、取り組みのさまざまな具体例を紹介していこうと考えています。基本的には、お願いして、ご協力いただくというスタンスですね」。
分譲後の取り組みに関しては、むしろ地域に育つコミュニティが大きな役割を果たすのでは、と杉浦さんは指摘します。
その萌芽はすでに芽生えています。UR都市機構では、調節池の利活用を考えるため、2004年から「水と緑の懇談会」という意見交換の場を設けてきました。地域住民や市民団体、完成後の管理業務を担う県や市、そしてUR都市機構がその参加メンバーで、小型ヨット用桟橋やかつての水郷越谷の再創造をめざすビオトープの整備は、ここでの意見交換が反映されたものです。
この懇談会を母体に、市民有志により2007年に越谷レイクタウンの活動組織として立ち上げられたのが「ふるさとプロジェクト」でした。彼らは現在、調節池を利用したレクリエーション等の企画・運営や周辺環境の維持にとどまらない、地域コミュニティ形成に向けた積極的な活動を続けています。
「取り組みの次の芽は、このような活動の中から生まれると私は考えています」と杉浦さんはいいます。

4.水辺環境と共生する暮らしの先にあるもの

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湖岸に2か所設けられている「親水テラス」は、すでに近郊の方の憩いの場となっている

京都議定書の基準年である1990年を起点に国内のCO2排出量の推移を分野別にみると、産業部門からの排出量がわずかながらも減少しているのに対し、一般家庭からの排出量は大きく増加したままであることがわかります*。
まちや住まいは一度つくられると、人びとの暮らしの基盤として長く使われつづけます。それだけに家庭部門からのCO2削減に向け、ヒートアイランド化を緩和するまちづくりや、住まいの省エネ化に向けたUR都市機構の先験的な試みは大きな意味を持ちます。
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UR都市機構 ニュータウン業務部チームリーダー 前田正人さん(左)、同 埼玉東部開発事務所事業課課長 清水良祐さん

UR都市機構は、CO2排出削減を大きく3つの領域に分けて捉えています。それは、【1】建設工事等において直接的に達成可能な領域、【2】自分たちが手掛ける建物の省エネ化により達成可能な領域、【3】分譲後の人びとの暮らしにより達成可能な領域の3つ。
【1】の取り組みの一例が建設副産物等のリサイクル化で、越谷レイクタウンでは地下鉄工事の建設残土の再利用や、ゴミ焼却施設のスラグを使ったブロックの採用などが実践されています。しかしCO2排出量としてみれば、【1】より【2】【3】の領域における排出量の方がはるかに大きいのも事実。それだけにUR都市機構では、人びとの暮らし方まで視野にいれた都市開発や住まいづくり、そしてそこに暮らす人びとへの情報発信を今後も積極的に行っていきたいといいます。
とはいえ、越谷レイクタウンに限っていえば、なによりも調節池の存在そのものが住民への強いメッセージとして機能するといえそうです。
北側調節池ではすでに渡り鳥が確認され、ビオトープの周辺でバードウォッチが楽しめます。暮らしの身近にある豊かな自然は、週末の過ごし方だけでなく、地球環境問題を考えるきっかけとしても大きな意味を持つのではないでしょうか。

(取材・文:滝内康友 撮影:横田 徹)

*出典:国立環境研究所温室効果ガスインベントリオフィスウェブページ