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全国の注目事例

1.再発見された太陽熱利用技術

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太陽熱パネルの総面積は950m2で、住宅用としては国内最大規模。その設置角度は冬場の日差しに合わせ調整されている。

駅を出ると目にとまる、大規模集合住宅「D'グラフォート レイクタウン」。その屋上に並ぶ無数の太陽熱パネルは、越谷レイクタウンを象徴する存在といえるかもしれません。
街をあげて低炭素化に取り組む越谷レイクタウンでは、一般の宅地分譲に先立ち、環境モデル街区の開発を手掛ける民間事業者が公募されました。条件は、街区内の集合住宅・戸建住宅それぞれにCO2排出量を20%削減するプランを盛り込むこと。そこで選ばれたのが、「太陽熱利用住棟セントラル」(集合住宅)、「パッシブデザイン」(戸建住宅)という技術を盛り込んだ大和ハウス工業のプランでした。これらは「街区まるごとCO220%削減事業」にも選ばれています。
越谷レイクタウンの集合住宅に導入された太陽熱利用住棟セントラルは、国内ではじめて住宅用として950m2という規模の太陽熱パネルを導入する試み。これは2つの既存技術の組み合わせから成り立っています。
ひとつは水などの熱媒を太陽熱によって温める太陽熱利用技術。これは1980年代をピークに日本でも普及が進んだものです。大和ハウス工業東京支社マンション事業部係長の堀達雄さんはいいます。
「まず考えたのは、家庭内のエネルギー消費でもっとも割合が高い給湯・暖房によるCO2排出量をどう抑制するか、という課題でした。そこから浮かび上がったのが、太陽光発電と違って直接的に熱が取り出せる太陽熱利用技術でした」。
太陽光発電に比べて太陽熱の利用には、大きなメリットがあります。 
太陽熱利用は、太陽ネルギー(日射量)の約50%を回収することができます。その数値は太陽光発電と比較すると約5倍のエネルギー回収率となり、またソーラーパネル装置等の費用も太陽光発電パネルと比較して安くなります。
「太陽光発電に比べて投資対効果が期待できることが太陽熱利用の大きな特徴です。日本での普及は進みませんでしたが、ヨーロッパでは今も第一線の環境技術でありつづけているのも、このような特徴があってのことです」。

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パネル内で温められた熱媒(不凍液)はプラント室へ送られる。手前に見えるのが熱媒循環用のパイプ。

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太陽熱集熱パネルは集熱板と熱媒用パイプで構成され高い集熱性能を備える。耐用年数は約30年以上という。

2.システムを支える、住棟セントラルという発想

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加熱用の補助ボイラーは汎用型簡易ボイラーが9台。これで500戸分の給湯がまかなえる。

太陽熱パネルをゆっくりと流れる間に温められた不凍液が、建物1階のプラント室で水道水と暖房用熱媒に熱交換され、再び太陽熱パネルへと送られます。一方、熱交換でつくられた温水は、一旦大型の貯湯タンクに貯められ、必要に応じて補助ボイラーで加熱され60℃の温水として各戸に供給されます。
住棟セントラルで500世帯への給湯・暖房のために用意された補助ボイラーは、汎用型簡易ボイラーがわずか9台。太陽熱の効果は、そこからもうかがえます。また、夏場は不凍液の温度が80~90℃に達するため、それだけで60℃の温水の供給が可能です。越谷レイクタウンの集合住宅ではこれに加え、各戸の床暖房にも太陽熱が活用されています。
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太陽熱を回収する熱交換機ユニット。計画では、給湯負荷の約45%を太陽熱でカバーする。

ボイラーを各戸に設置するのではなく一か所に集約する住棟セントラルは、ボイラーを屋外に設置できない北海道などの寒冷地で普及が進みました。大和ハウス工業でも、10年以上前から導入を進めてきたといいます。
「住棟セントラルのメリットのひとつに、ガス会社や電力会社と大口契約を結ぶことで光熱費を大幅に減らせるという点があります。それと太陽熱利用技術を組み合わせることで、低炭素化とコスト面のメリットの両立がはかれると考えたのです」。
建物の全ての窓ガラスにはペアガラスを採用するなど、断熱性能も向上させ、越谷レイクタウンの集合住宅におけるCO2削減率は、試算によると26縲鰀27%になると見られています。
「残念ながら500世帯中320世帯が入居する今の段階では、まだその水準には達していません。今後全世帯が入居を終えた段階では、計画値に近い数字が発表できるはずです」。

3.普及に向けて残された課題

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正面の窓のない建物がプラント室。温水がここから全戸に供給される。

太陽熱利用住棟セントラルの普及には、いくつかの課題が残されているのも事実です。
そのひとつが運営面の問題です。住棟セントラルの場合、居住者は管理組合からエネルギーを購入する形になりますが、誰もが納得する料金体系をつくるには一定のノウハウが必要、と堀さんはいいます。
「例えば、1階や最上階と中間階の世帯では暖房等のエネルギー消費量が大きく異なるため、単純に従量計算を行うとどうしても不公平感が生じます。それを避けるには、基本料金と従量料金のバランスを上手にとることが必要です。また、システムの維持には、毎月一定額の黒字が出ることも大切なこと。このような料金体系づくりは、ノウハウを持たない一般の管理組合には荷が重いはずです」。
そのために住棟セントラルを導入する場合は、ディベロッパーの関連会社がその後の管理まで担うのが一般的です。
「それだけにディベロッパー側から見れば、『売れば終わり』になりにくいのも事実。エネルギーコストが抑えられるにもかかわらず、北海道以外で住棟セントラルの普及が進まない背景には、料金体系づくりをはじめとする施工後のフォローを負担と感じるディベロッパー側の意識もあるのではないでしょうか」。
もうひとつが建築コストの上昇です。一般的に販売価格は従来型に比べて一戸あたり約100万円高くなるといわれています。
「とはいえセールス的には、今回の低炭素化の取り組みはプラスとして働いたと考えています。価格上昇分をランニングコスト削減でカバーできることを提示できたことがその大きな理由です。やはり、『低炭素だから』という理由だけでは住宅は売れません。コスト面のメリットがあってはじめて選んでいただけると考えています」。
それだけに行政による補助は、今後も大きな意味を持ち続けると堀さんはいいます。その一例は東京都などが導入を検討する「グリーン熱証書制度」です。これはグリーン電力証書制度の熱利用版といえるものですが、電力としてエネルギー量を明確に数値化できるグリーン電力と違い、熱量は客観的基準で数値化することが難しく、導入はいまだ実現していません。
「しかし太陽熱利用住棟セントラルであれば、太陽熱によって代替された熱量を明確に数値化できます。グリーン熱証書などの制度が整備されれば、太陽熱利用は確実に進むはずです」。
また、太陽熱利用住棟セントラルのメリットを生かすには、ある程度の規模も必要。100戸以上がその目安で、太陽熱パネル設置スペースの関係上、タワー型マンションへの導入には、壁面やバルコニーの手すりといった垂直面への設置を検討していく必要があります。
「課題は残りますが、私たちはこれらの条件を満たす物件では、今後も積極的に導入を検討していきたいと考えています」。

4.風を生かした低炭素化への試み

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住宅内には、階段室上の天窓、外壁にそって流れる風を屋内に取り込む縦スベリ出し窓など、風を取り入れるさまざまな工夫が施されている。

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南側・西側窓に備えられた遮熱スクリーン。通気性を損なわず、日差しの70%カットが可能という。

一方、戸建住宅エリア「レイクタウン美環の杜(みわのもり)」において重視されたのは、夏場の冷房負荷低減という課題でした。大和ハウス工業東京デザイン事務所街づくりグループ主任技術者の井野善久さんはいいます。
「住まいの断熱性能向上により、暖房負荷の低減化はすでにある程度達成されています。美環の杜では、残された課題である冷房負荷低減を中心に取り組もうと考えました」。
注目したのは地域に吹く風でした。風を屋内に取り入れることで、エアコンに頼りすぎず快適な環境がつくれるのではと考えたのです。そこで取り入れたのが、間取りや窓の位置などを工夫することで住まいに風を導くといった、その土地の自然環境を最大限に活かす「パッシブデザイン」という計画手法でした。
越谷市周辺は、夏は南または東風、冬は北西からの強い季節風が吹くことで知られています。プロジェクトは気象庁のアメダスデータをもとに、南風や東風が通り抜けやすいランドスケープを検討することからはじまりました。次に行ったのは、東京大学生産技術研究所・大岡研究室の協力により、計画された街の中に流れる風を緻密にシミュレーションすることでした。
「美環の杜ではそのデータにもとづき、風が通り抜けやすい間取りや窓の配置を一軒ごとに考えていきました」。
風が通り抜けるための工夫は、随所に見つけることができます。階段や吹き抜けの上に天窓が設置されていることはその一例。これにより風の出口を確保しているのです。
また南側・西側の日差しが直接当たる窓には、日差しを70%カットする遮熱スクリーンを装備しています。
「いってみれば、現代版のすだれです。風を生かす住まいづくりを考えると、おのずと古民家の知恵に行き着くのかもしれません」。
クールスポットとしても機能する豊富な植栽や、打ち水効果がある保水性舗装も美環の杜の特徴のひとつ。エリアの北側・西側には、6m以上に成長する高垣が巡らされていますが、これは古くからこの地域に伝わる、冬の季節風から住まいを守るための知恵を借用したものと同社同グループ主任の舘智徳さんはいいます。

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エリアの北側・西側に巡らされた高垣。冬の季節風を防ぎ、緑豊かな景観をつくりだしている。

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植栽の豊かさも美環の杜の特徴のひとつ。中央に見えるのは、川玉石と金属メッシュを組み合わせたエントランス灯。将来的にはここにも植物が絡むという。

5.住宅は確実に進化している

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植栽は、夏は葉が生い茂り冬は日差しを通す落葉樹が中心。歩道部分は保水性舗装が採用されている。

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東京大学生産技術研究所・大岡研究室による街区の温熱・風環境シミュレーション。レイクタウンの戸建住宅では、これをもとに住戸と植栽のデザインが進められた。

風は、日々条件が変わる自然現象を前提にするものだけに、その効果を机上で計算するのは難しいのが現実です。また、冷房負荷低減には、室内温度だけでなく「涼しさ」「快適さ」といった主観的な要素も大きく影響します。そのため、大和ハウス工業ではレイクタウンの戸建て住宅の入居者に協力を依頼し、今後2年間にわたってエネルギー使用量の計測とヒアリングによる調査を続ける予定です。
「CO220%削減という課題は、2006年9月に発売を開始した当社の省エネ住宅や高効率な給湯設備の導入によって達成しています。パッシブデザインにより、どれだけの上積みが可能かという点に注目したいと考えています」。
レイクタウンの戸建住宅の第一期分譲は、周辺に比べ割高な物件だったにも関わらず、すでに完売しました。
「誤解される方も多いようですが、販売価格の高さは土地のポテンシャルを反映したもの。パッシブデザイン自体は、標準的なコストで十分に導入可能なものです」。
大和ハウス工業では今後、ここで培ったノウハウを全国的に展開していく予定です。
「風の流れを把握するという計画手法では、すでに周囲に家々が建ち並ぶ既存市街地のほうが導入しやすいと考えられます。大規模なシミュレーションは難しいと思いますが、屋内の風の流れをシミュレーションするソフトはすでに市販されています。今後は、それらのソフトも使いながら、さまざまなお客様へ多様な提案を行っていきたいと考えています」。
住宅は確実に低炭素社会に向けて進化しています。その普及に向けたさまざまな取り組みが今、始まっています。
(取材・文:滝内康友 撮影:小澤義人)