
自動車での移動を前提としたまちづくりを変えます

このシリーズの初回で、西岡先生からエコ社会のイメージとして、「歩いて暮らせるまちづくり」が挙げられました。また、高齢化社会に向かうなかで、地域のこれまで悪かったところを、まとめて直してしまう機会でもあるともうかがいました。
今回は、その方法をうかがうチャンスなので楽しみです。まず、地域づくり分科会の背景や目標からお願いします。
根本さんが生まれる前に始まったことですが、ここ40~50年ほどの間に、地域は大きく変わりました。一番の変化は、市街地が大きく広がったことです。郊外に大規模小売店舗が登場しました。一方で、中心市街地のなかには衰退したところも少なくありません。
原因の一つはクルマ社会で、まちづくりが自動車での移動を前提としたものになったことです。そして今、かつて自動車を使っていた人々のなかには高齢者になり、車を運転することが難しくなった方が増えてきました。ところが、かつては存在した公共交通機関が、利用できなくなった地域が増えています。
お年寄り以外にとっても、仕事や通学、お買い物に要する移動距離が長くなり、効率が悪くなってきました。
そうしたマイナス面を見直しながら、魅力あるまちにしていこうというのが地域づくりの分科会なのですね。
その通りです。
私は、大学卒業後の4年間は仙台で過ごしました。市の中心部に国分町という古くからの商店街があります。そこに行けば、美味しいものがあり、ほとんどの買い物がすんで便利でした。
ところが、郊外に便利なモールなどが出来て、地下鉄が南北にしか通っていないこともあり、私自身も車を使うことが多くなりました。都市は、生き物でどんどん変わっていくわけですが、それをコントロールして、「歩いて暮らせるまちづくり」にすることはできるのですか。

都市機能を集中させる地区を、公共交通網でつなぐコンパクトシティ化を進めます。
都市計画に、「成長管理(グロース・マネジメント)」という手法があります。種々な政策を組み合わせて、土地利用と交通の連携をとるわけです。公共交通や歩いて暮らせるようなエリアを都市のなかに、広げていくことは可能です。これからの日本では、都市の縮退を管理する視点も含めて、マネジメントの考え方が重要になっています。コンパクトシティという言葉を聞かれたことはありますか。
はい、都市の機能や形を一箇所にまとめて、コンパクトにしていくことですね。
考え方は、その通りです。但し、一箇所に集めることには、こだわりません。一定の考えの下に、たとえば、富山市で実践しているように、集められるところは、「お団子」のように、できるだけ都市機能を固めていく。複数のお団子を、道路や公共交通という線でつなぎ、移動できるようにします。それを「串」と呼び、まとめて「お団子と串」と言うわけです。
「お団子と串」のコンパクトシティですか。面白いですね。それには、「そういう地域にしよう」と住民が思い、協力しあうことが必要ではないでしょうか。また、お金もかかりますね。

そうですね。住民参加、財源、公共交通の利用を促進する法律などが欠かせません。
まちづくりを進めるには、地域で将来のまちの姿を目標として共有し、その実現のために協力する住民参加が欠かせません。日本の都市や交通の計画は、今まで、その仕組みがちょっと弱かったと思います。それをこの機会に温暖化対策の市町村実行計画の制度強化とともに、温暖化対策という切り口から進めよう、というのもロードマップで提案しています。
また、整備や運営には財源も必要です。特に公共交通はインフラ部分と、運営部分と両方に沢山のお金がかかります。日本では、両方とも運輸事業者の独立採算制で行われるケースが多かったのですが、他の方法をとっている国は少なくありません。
例えば?
アメリカですが、ある時期から、自動車が支払うガソリン税の税収の一部を公共交通に転用できるようにしました。ボストンの地下鉄、ポートランドのLRT(軽快路面電車)は、そのお金で建設されました。ロサンゼルス、サンフランシスコ、ソルトレーク、フェニックスなどアメリカのあちこちでLRTが走っています。また、それらは運賃収入だけで運行費用を賄えませんので、その不足分にもガソリン税の税収が利用されています。
ヨーロッパでも、公共交通は、公共サービスという位置づけなので、建設ばかりではなく、運行費用についても不足分の多くは税金等でまかなわれています。
サンフランシスコの中心部をビンテージカー(復古路面電車)が走る
路面電車が道路の真ん中を走り、残された車道空間は自動車と自転車の共有レーンに(サンフランシスコの幹線道路)
「ある時期」というのは、何かきっかけがあったのですか。
日本も含めて多くの先進国では、自動車が急増した時代に、加速も減速も悪かった路面電車を「邪魔だから外してしまえ」と、廃線にした地域が多かったのです。その結果、さらに車もますます増えて、我が国などでは自転車で車道を走るのも危険になり、歩道に上げてしまいました。
一方、そんなさなかに、環境意識やコミュニティ意識の高まりもあって、行き過ぎたクルマ社会に対する疑問の声が大きくなります。アメリカでは、1960年代後半頃に、ボストンやポートランドで、高速道路に対し大きな反対運動が起きました。その結果、いわば市民の力で高速道路の整備財源を公共交通に転用することに成功したのです。最近では、ヨーロッパでも、自動車に占有された道路で、路面電車や自転車の走行空間を整備すべしとの市民の声が高まっています。

フランスでは交通基本法に基づく将来交通計画PDUで、「自動車交通を減らす」ことが目的として義務化され、LRTや自転車用の空間がつくられました
それに政治が反応したのですね。先生が持ってこられたアメリカやヨーロッパの写真を拝見すると、道路空間の一部を自転車や公共交通に使っています。これは、自動車の流入量を規制しているのですか。
そうです。例えば、フランスですが、交通基本法で「(自動車以外の方法で)移動する権利」を概念的に保証しました。その後、都市交通計画の策定にあたっては、「自動車の交通を減らす」ことを目的にすることを義務化しました。これを背景に、各地でLRTの建設や自転車道の整備が一層進みました。70年代以降のLRTは、技術革新も進み、道路上で車との共存も可能なのです。
また、2008年にカリフォルニア州では、「完全なる道路の法律」を制定して、道路が自動車だけのものではなく、歩行者や自転車、高齢者や子供など様々な利用者に配慮するよう、新たな基本理念を定めています。
ナンシー(フランス)のLRT
パリ・モンパルナスでは中央車線を自転車に解放(バス共用)
つまり、モータリゼーションで一度、大幅に減った公共交通を復活させたり、自転車が乗りやすいように法律を整備したわけですね。
その通りです。

環境税を使う、量産効果でコストを下げる、道路空間の再配分の時に行うなどの方法があります。

社会の仕組みが欧米とは違う日本で、公共交通を普及するには、どんな方法がありますか。
実は、日本でも税金を投入して、LRTを運行している地域があります。LRTの先進事例として知られる富山市です。LRTの整備については、整備新幹線の建設に伴う補償工事であったため、地域の負担はありませんでした。ところが、運営のところは、みんなで乗るだから、みんなで支えていきましょうということで、赤字が出たら、自治体の財源で賄いましょうという地域の合意ができています。
高齢化社会に向かうなかで公共交通は、地域にとって欠かせませんからね。そういう自治体が沢山出てくれば、車両やレールの費用も下がって、安く導入できるようになるのではないですか。
その通りですね。「やろうじゃないか」という地域が20箇所も出てくれば、そうなりますね。路面電車の最盛期には、日本には1500キロぐらいの路線がありました。それをもう一度復活しようじゃないか。アメリカやヨーロッパでも出来たんだから、我々もできるだろう。というのが、ロードマップで提案していることの一つです。
日本では、富山市以外に税金で整備することは出来ないのですか。
国会で審議している(6月7日現在)、地球温暖化対策基本法では、温暖化対策税を提案しています。この税収を活用して集中的に整備するのが一案です。
一つの都市に、20キロから30キロの路線を引くとすると、50以上の都市に配分される計算になります。LRTに加えてBRT(バス専用の走行空間を有する交通システム)を選択肢にするならば、2、3兆円もあれば、初期投資には十分ではないでしょうか。
自転車道の整備については、欧州や米国など各地で進む車道上の自転車レーンを選択肢に含めることで、低予算でネットワークの整備が行え、LRTやBRTと交通システムとして連携させることも可能になります。

ペンキを塗るだけで、自転車の走行空間になる道路が何万キロもあります
私は自転車好きなのですが、LRTがない地域で、自転車道はどう整備しますか。私は渋谷区に住んでいて、事務所が青山にあることもあり、東横のセンター街を自転車で走ったことがありました。でも、じろじろ変な目で見られました。駐輪場もないし、車道は危ないし、今のままだと勧められないですよね。
センター街に自転車道をつくるのは、難しいかもしれませんね。ヨーロッパでも、モールのなかは歩行者優先で、自転車は使わないようです。 ただ、東京の青山通りや甲州街道の麹町あたりでは、1.5メートル程度の路肩があります。自転車にしても、歩道よりも車道を走る方が安全であることも徐々に分かってきています。
調べてみると、全国で道路幅と交通量の相関で、ペンキで線さえ引けば、自転車レーンをつくれる道路が少なくとも5万キロ程度はありそうです。仮に小都市の縦・横5キロの中心部に自転車道や自転車レーンを500m間隔で設置すると、延長は110kmになります。このような場所が中都市以上なら4,5箇所分は必要になるでしょう。全国の100都市程度を考えれば450か所程と見積ることができ、これは総延長で5万キロになります。一部は自転車専用道路の整備が必要になると思いますが、自転車レーンを大いに活用すれば可能性は格段に広がります。
なるほど。既にある道路を上手に使うという方法があるのですね。歩行者も自転車も安心して走れるよう、ぜひ進めてほしいですね。地域づくりのロードマップを拝見すると、エネルギーでも「地域の未利用エネルギー(ゴミ処理場の廃熱など)の利用」など、既存の施設を有効活用するという提案が多いことに気づきます。
先人が残してくれたインフラを大事に使いながら地域づくりをすすめるのがエコ社会であることを今回は教わりました。屋井先生、今日はありがとうございます。

政府では、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップの提案」の内容について、広く国民の皆様からの意見を募集しています。
詳細については、環境省ホームページ
をご参照ください。